──金属が擦れ合う音と醜い叫び声、魔法で生み出される不可思議な音が入り交じった戦場(いくさば)は生臭い血の臭いが絡み合い、吐き気さえ覚える。

 かつて経験したことのない規模の戦いに、人々はこれまでの体験と同列に考えてはならないと気を引き締めた。

 そんな乱戦のなか、赤毛の女がシレアを見据えていた。

「わたしの名はシルヴィア。ネルサ様に名付けていただいた」

 暗い紫(ダークスレートブルー)の瞳を怒りに輝かせ、風になびく髪はこの場に相応しいと思えるほどに赤い。

「どうしてネルサ様に従わない。ネルサ様がお前を求めているのだ、それは正しいのだから従うべきなのに」

 低く唸るように発し、細身の剣先をシレアに突きつける。

 その言葉と鋭い眼差しには、己の主人に従わないシレアへの怒りだけではない何かが見て取れた。






※一意専心(いちいせんしん):他のことに心を奪われることなく、一つのことだけに心を注ぐこと。
「一意」と「専心」はどちらも一つのことだけに心を注ぐこと。
「一意摶心」とも書く。