「余興だと思えばいい」

「御意に」

 頭(こうべ)を下げたあと、立ち上がって部屋をあとにする。

 四角くくり抜かれただけの窓から吹き込む風はもの悲しく甲高い音を鳴らし、月光が連なる岩山の姿を黒く塗り込んでいる。

「ククク」

 女が去ったあと、男は揺らめく炎を見つめて嬉しそうに喉の奥から笑みを絞り出した。

 肩に掛かる鈍い銀の髪は湿り気を帯びたように落ち着きを保ち、男の心の奥を隠すようにロウソクの灯りに照らされていた。

「シレア、楽しみだ」

 小さく紡がれた言葉は石の壁に吸い込まれるように消え、男のこぼす笑みだけがその空間に不気味に響き渡った──