この声は──

「ギャラルか!」

 向かってくる大きな黒い影を咄嗟に避ける。

 灰色の毛を逆立たせ、その猛獣はシレアを威嚇した。

 虎を思わせる風貌と鋭く長い牙、強靱な顎はシレアの小さな頭をひと呑みにしてしまえるほど大きく裂けた口をしている。

 ギャラルという名の獣は、牙から逃れた獲物をじっと見つめて「次は逃がさない」と言わんばかりに大きく吠えた。

「──っ」

 すかさず腰の剣を抜き、いかにも頑丈そうな毛皮を見つめた。

 その見た目から、動きは素早いと推察できる。

 この獣を倒すに効果的なのは強力な魔法だろう。

 しかれど、魔法をぶつけるのは難しい。

 強い魔法ほど集中に時間を要するのだから。

「仕方ない」

 言ってシレアは口の中で何かを唱え始めた。