「手綱をしっかりと持て!」

 古の民が叫ぶと、シレアの頭上から黒い球体が現れ、見る間に膨らんで女に向かっていく。

「なんだあの魔法は!?」

 暴れる馬をなだめながらアレサは声を荒げた。

「あれは、我らが駆使していたとされる古の魔法じゃ!」

 わしでさえついぞ忘れていた魔法を、よくも唱えたと感心しながらも苦い表情を浮かべる。

 古代語でしか存在していない魔法を彼はどこで見たのか。

 シレアが創り出した黒い球体は、女が放った炎の塊をことごとく吸い込んでいく。

 しかし、それだけでは終わらなかった──

「あのさ……。なんだか、でかくなってない!?」

 ヤオーツェは眼前に浮かぶ漆黒の塊(かたまり)に叫んだ。

 球体は徐々に女を目指しながら大きさを増していき、それに伴い力も増しているのか引き寄せられていく感覚に危険を感じた。

「こいつはまずい」