「有り難い」

 つぶやいて、低い唸り声を上げる猛獣に剣を構え直す。

 これだけの巨体に効果のある攻撃が出来るのか解らないが──やるしかない。

「奴の気を引いてくれ」

「わかっタ」

 ムチのようにしなやかな尾を揺らし、片刃の剣を構えて爬虫類特有の声で威嚇すると、獣はその声と動きに反応して彼女に狙いを定めた。

 すかさずシレアは口の中で何かを唱え、ゆっくりと獣の背後に回る。

 威力のある魔法には長い詠唱を必要とするため、終わるまでこちらに気づいてくれるなよと獣の背中を見つめた。

「シャーッ!」

[ガオォウ!]

 バシラオも負けじと威嚇し、前足をケジャナルに振り下ろす。

 しかし、間一髪でそれを避け、振り下ろされた前足に刃を走らせた。

 硬い感触に舌打ちが漏れる。

 獣はその大きさだけでなく、皮膚も強靱なことが窺えた。

 これは倒せる自信がない。