「なんだ?」

「どうなってんだ?」

 一同は呆然と立ちつくし、互いに顔を見合わせる。ただ一人、シレアだけは複雑な表情を浮かべていた。

 とりあえず落ち着いたところで船室に戻り、食べ損ねていた昼食に手を伸ばす。

 点検が終わり次第、船を進めるそうだ。

「一体なんだったのじゃ」

 冷めたスープと硬いパンに顔をしかめる。

「クラーケンに襲われて無事でいられたのですから、良しとしなくては」

「あんな怪物、これからも願い下げじゃ」

 憎らしげにパンを噛みちぎる。

 ふと、シレアの浮かない表情に眉を寄せた。

「いかがした」

「なんでもない」

「さすがのおぬしもびびりおったか」

 嬉しそうに言い放つユラウスを尻目に、アレサは目を眇めた。

 クラーケンはあのとき、シレアを捕えられたはずだ。

 なのに、そうしなかった。

 あれはまるで、何かに怯えるように慌てて退いたかのようだった。

 アレサは改めて、シレアが何者なのかを思案した。