「彼を指名した人間がよくも言う」

「悪かったよ。こんなことになるとは露ほども思わなかったぜ」

 シレア自身を捕らえる事が無理ならと、クラーケンは船の破壊を優先した。

 こちらの攻撃はもはや無駄としか言いようもない。

 おもむろに低く、くぐもった声が船上に響き渡る──その方向に目をやると、剣で攻撃を受け流しながらシレアが何かを唱えていた。

 それを目にしたユラウスとウィザードたちが続いて唱える。

 ほぼ同時に一同が唱え終わると、腕のあちらこちらから大きな爆発が起こった。

 巨大な腕はその痛みからか、びくりと強ばる。

 攻撃が効いたのかと思った瞬刻──

「シレア!」

 怪物の腕が一斉にシレアに襲いかかる。これだけの攻撃を剣で受け止めることは不可能だ。

「──っ」

 シレアは覚悟を決めたが、腕は何故か彼のすぐ手前でぴたりと動きを止めた。

 いぶかしげに見つめていると、腕はするすると静かに海の中に消えていき、まるで何事もなかったかのように凪いだ波の音だけが残された。