「そうしよう……。胃の中には何も無いのに、吐き気が止まらん」

 這いずりながら甲板に向かう彼の背中に苦笑いを浮かべる。

 かつて「古の賢者」と呼ばれた種族も、あれでは威厳も何もあったものじゃない。

 アレサは、レーズンパンと野菜スープを交互に食べ進めながら船室を見回した。

 彼にとっては外の全てが新鮮なのだろう。

 川面に浮かぶ船は知っていても、大海を駆ける船は初めて見るのだ。

 きっと、海の広さにも驚いたに違いない。

「海の香りというものは独特なのだな」

 感情の起伏はシレア以上に希薄だ。

 これでもアレサの中では、戸惑いや驚きが満ちているに違いない。