「ちゃんとお客さんつれてきた」

 しれっと言い放つ少女にシレアは呆れて溜息を吐き出した。

 あの方法で、果たして何人が宿に泊まってくれるだろうか。

「父さんたちがいた頃は常連さんがいたんですけど」

 カナンは苦笑いを浮かべる。

 手伝いをしていたとはいえ、それが主人となれば今までとはまるで勝手が違う。

「本当、毎日こんなことをやっていた父さんたちは凄いなって」

 慣れないことで段取りが悪く、客は少しずつ遠のいていった。

 今は、近隣の人々の助けでようやく続けているという現状だ。

「あ、ごめんなさい」

 気を取り直すように笑みを見せ、宿帳を手渡す。

「放浪者(アウトロー)に宿帳を渡す奴があるか」

 椅子に腰掛けたシレアは、呆れながら羽ペンを手にして名前を書き記す。