──そうして、旅立つ父の背中を見送ってから十年の後(のち)、父は帰らぬ人となった。

 モンスターに襲われていた人間を救うため、己の身を挺してモンスターと闘い相打ちとなったそうだ。

 その礼と、彼の持ち物を届けるため集落を訪れた人間は、

「我々さえいなければ彼は死ぬことはなかった」とアレサに何度も謝った。

 アレサは唇を噛み、へたり込む彼らに視線を合わせるように膝を折る。

「もう充分です。あなた方を救った父を、わたしは誇りに思います」

 気丈な言葉に、そこにいたエルフたちも喉を詰まらせる。

 それからアレサは、わだかまりを振り払うためなのか闇雲に己を鍛え続け、いつしか誰も彼を「半端モノ」とは呼ばなくなった。

 しかれど、その心の奥には父の生きてきた道を辿る自分がいたのだろう。

 シレアの誘いに、思いがけずも胸が躍った。

「あのとき、父がわたしを連れていればと何度も考えました」

 二人だったなら、父は死なずに済んだはずだ。

 是か非でも、ついていくと言えば良かったとアレサはしばらく悔い続けていた。