何が起きたのか全く理解できず、砕けたような頬骨の痛みに耐えながら上半身だけを起こし、後ろを振り向いた。

そこで更に背中を蹴ろうと足を振り上げる男子生徒の姿を見た。

何度も背中を蹴られ、騒ぎに気付いた教員が男子生徒を取り押さえに来てくれたのは、私が気を失った後だったらしい。

案の定、目を覚ましたのは保健室。横向きで寝かされていたので天井ではなくベッドの横でパイプイスに座り、うっとりとした瞳を浮かべる修司を一番にとらえた。

目が合うと、悲しそうな目つきに変わるのを見逃さなかった。


「大変だったね、可哀相に」

「わた……っ」


口を開くと頬骨に痛みが走った。

頬が引きつり、まばたきさえしづらい状態だったのを覚えている。


「修司、私の頬、どうなってる?」

「少し、腫れてるかな」

「鏡、持ってる?」

「ごめん持ってない。それに、今は見ない方がいいよ」

「やだ、鏡、貸してよ!私のカバンの中に入ってるから取ってきて!」

「桃美、落ち着いて」

「落ちつ、ぐっ、ぁぁ」


無理に起き上がろうとすると、呼吸すらできないほどの激痛が背中をかけめぐる。

その時、背中を何度も蹴られたことを思い出した。

道理で横向きに寝かされていたわけだ。

なぜ入学早々こんなことになってしまったのか。

布団をめくり上げると真新しい制服は鼻血のせいで点々と赤黒く染みができていた。

「……蹴ってきた人、知らない人だった」乾いた血を爪でひっかきながらつぶやく。


「さっきね、そいつと話ししてきた」

「え」

「桃美を蹴ったこと覚えてないって、泣きながら言い張ってきてさ」


まさに意味不明だ。

蹴ったことを覚えていないなど、言い訳になるのだろうか。現にあの時の私は、痛みに苦しんでいたのに。

修司の話しによると、入学式に出席していた保護者がそのまま職員室へと呼び出され一緒に帰宅したらしい。

処分は一週間の停学だと聞いた。