今朝、下駄箱で上靴に履き替えていると、知らない男子生徒が太ももを思いっきり蹴ってきたのだ。

一度ではなく同じ箇所を五度も。

倒れ込む私の足を掴み、蹴った箇所をまるで犬のように何度も鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでくる始末。


「たまらねぇ……ぁぁっ」


男子生徒の目に光はなかった。不気味、という言葉が一番似合いそうな、そんな表情をしていた。

周囲にいた生徒が、なに、とざわつき始めると騒ぎに気付いた教員二人がこちらへ駆け寄ってきた。

そこで足を離してくれたのだが、もう遅い。皆こちらを見ている。下着なんて丸見えだ。

この時、修司もどこかで見ていたに違いない。

湿布の上からしつこくさすってくる手は、やたらと熱っぽい。


「ねえ修司、一つ質問してもいい?」


修司の手から逃れるように、二歩横にそれた。

「ん、なに?」優しい表情を崩さないまま首を横にかしげるが、逃げるな、とでも言うかのように腕を掴まれる。


「修司と私は双子だよね?」


「今更どうしたの。うん、俺がちょっと先に産まれたから兄だけど」

「そうだね、私が修司の少し後に産まれたから妹だよね、でさ、その双子同士が……」


双子同士がこうして仲良くしすぎるのは周りから見ると変に見えると思うんだ、そう言いたい。言いたくてたまらない。


「双子同士が、なに?」

「えっと、わ、忘れた。何を言おうとしてたんだっけ私!」

「忘れた?あはは、桃美らしいな」


「頭にも湿布貼る?」ふざけてくる様子は昔と変わらない優しい修司に見えるが、掴まれた腕の力強さは私を不安におとしいれる。

もう片方の手が再び足へと伸びてきたと同時にタイミングよくチャイムが鳴った。触られないようさり気なく足を引く。

「四時間目は数学なの!」わざと学生の会話をこぎつけた。

「行こうか」と、腕を掴んだまま歩き出す修司の手を振りはらい、「お先に!」明るい声と表情を作り走った。

双子の兄が妹の腕を掴んでいる現場など見られたくない。