サクラサク。



引っ越しも無事に済み、一人暮らしにも慣れた頃、早瀬さんから一通の手紙を貰った。
淡い桃色の封筒をきちんと閉め、宛名も送り名も綺麗な字で綴られている。

本当に律儀な人だな…と思いながら封を開けると、同じ桃色の便箋と何も書いてない真っ白な封筒が一枚入っていた。


桃色の便箋には、やっぱり綺麗な字で綴られていた。




拝啓、黒川 秋様

季節も変わり、心地よい風が吹くこの頃。
お元気でお過ごしでしょうか。

さて、つい先日、彼に会う機会が有り、手紙を預かって来ました。
同封して置きますので、目を通して見て下さい。

用件のみで簡素では有りますが、いつかお会い出来る機会が有れば、幸いに思います。

早瀬 充。


追伸、彼は変わりなく元気な様子です。




綺麗な文字が滲んで、手が震える。
突然のように舞い込んだ手紙に触れて、気持ちが揺らぐ。

嬉しい気持ちよりも恐怖感の方が多かった。


近所の幼稚園から聞こえる歌声がやけに耳に響く。


息を整え、静かにハサミを入れると真っ白な便箋が顔を出す。
一瞬手が止まり、ハサミを置いて静かにそれを開いた。


その言葉に私はただ涙を流した。