「いいえ」



私は迷わずそう答えた。
すると早瀬さんは「そうだと思いました」と言ってお茶を飲み干し、湯呑みを覗き込んで詰まらなそうな顔をする。



「茶柱、飲めませんでした」


「…入れましょうか?」


「いえ。お構いなく」




早瀬さんはとても律儀な男性だった。
言葉遣いにしても、立ち振る舞いも、捜査一つに置いても。
私には直接言わないけれど、早瀬さんの手帳が物語っていた。

多分、早瀬さんは知っている。
私と彼がどんな関係で、どうしてそうなったのかも…




「もうすぐクリスマスですね…」


「えぇ。僕がここに来るのも今日が最後です」


「そうですか…」




早瀬さんは手帳をしっかりとポケットに入れ、スーツのシワを直して立ち上がる。



「いつも美味しいお茶をご馳走様でした」


そう言って深々と頭を下げ、玄関へと足早に去って行った。
その背中に私は声を掛ける。




「早瀬さん」


「はい」


「彼に…会う事は出来ますか?…」



大きな背中が振り向き、その顔は困ったように戸惑いがちな表情を作っている。
訊くだけ無駄なのは分かっていた。



「無理です。が…手紙なら可能です。内容は確認されますが…」


「…分かりました。引き止めてすいません…」


「いえ。では…」