テーブルに手帳を静かに置き、そのまま湯呑みに右手を伸ばして呟いた。



「茶柱…立ってますね」


「え…?」



早瀬さんの声に思わず自分の手にある湯呑みを覗き込む。

そのまま静寂な時間が過ぎ、リビング中央の壁に掛けてある時計が忙しそうにカチカチと音を鳴らしていた。



「実は…今日は加害者について、知らせたい事が有って訪ねたんですよ」


湯呑みを手にしたまま、早瀬さんが優しい眼差しを向ける。



「…なんですか?」と私が尋ねると、手にした湯呑みを口にし、一息吐くと共に言葉を綴った。



「加害者の刑が決まりました。…そう長くないそうです」


「そう…ですか…」


「色々調べた結果、初犯と言う事と…貴女の証言が刑を和らげたようです」



「でも…罪に問われるんですね」


「えぇ…物的証拠があるので、それは仕方のない事です…」


「そうですか…」




私は深く呼吸をして空を見上げた。
真っ白な空だった。

雲一つない、一点の曇りもない空を見渡しながら、もう一度だけ深く呼吸をする。
変わらない現状に目を伏せようとした時。



「不服申し立てしますか?」



とても冷静で、至って真面目な早瀬さんの声が響いた。