犯人、加害者、犯行。

その言葉に相応しいような何もない部屋。
部屋、と表すよりは取調室に近く、真っ白な壁の中に窓が一つ備えられ、真ん中にデスクが置かれてるだけ。

目の前の橘さんはボールペンを手にし、眼鏡を上げて言う。



「一応、確認の為に氏名、年齢、誕生日、住所を聞かせて貰えますかね」


「……黒川 秋、29才…12月8日、北海道…」



橘さんの少し後ろで澤田さんは椅子に腰を下ろし、ポケットからメモを取り出して書き始めた。

私が言い終えると橘さんはふと顔を上げ、顔中を見回し視線を落とす。
しばらくの間、メモ帳をじっと眺めてから橘さんは確認するように言った。



「黒川 秋…さん」


「はい…」


「加害者と面識は無いですよね?」


「…どうしてですか?」


「これも一応、確認ですから…」



確認。

自分の言葉の中に何を確認するんだろ…


それを確認出来れば春は解放されるの?
そう問いたかったけど、違う言葉が出ていた。



「春は……いえ、私は何もされてません」




橘さんは顔を上げ、目を丸くさせながらボールペンで額を掻き、怪訝そうにシワを寄せていた。