「えぇ…犯人、加害者は犯行を全面的に認めてるので、これは形だけみたいな物ですから…」


五十代の男性は慣れた手つきで紙を広げ、スーツの内ポケットから眼鏡を取り出して掛け、目を細めてメモ帳を眺めながら続ける。



「あ、私は橘と申します。一応」


そう言い終えたと同時に、小さなデスクの上に煎れたての珈琲を置きながら女性が言った。



「澤田です。どうぞ」



私は挨拶もせず、橘と名乗った男の頭の先を見上げた。
そこには小さな窓があり、頑丈そうな鉄柵を太陽が鈍く照らし、外にはまだ雪が降り続いていた。


春はどうしてるだろう…


そう考えながら部屋を見回し、右手の上に左手を重ねて溜め息を吐く。
すると橘さんが申し訳なさそうに口を開いた。



「すいませんね…客室を使いたかったんですが、先客があったもんで…」


デスクにある湯呑みを片手に、橘さんはにっこりと微笑み「落ち着きますから、どうぞ」と言って音を立てながらお茶を啜る。

澤田と名乗った女性に目を向けると、同じような顔して小さく頷いた。



私は湯気の立つカップを眺めたまま、まだ手に残る温もりを辿っていた。