次の朝。


「おはよ」

「…おはよ…」



とびっきりの爽やかな顔を作って秋を起こし、キスをした。
そして秋に着替えさせ、長い髪を梳き、香水を耳に落とした後、二人で部屋を出た。

俺は向こうに着くまで、来た時と同じように何も話さないようにした。
話せば気持ちが揺らいでしまうから…


時間通りに飛行機は到着し、空港の出口まで進んで足を止めた。
秋の手を引き寄せ、オデコにキスをし、心の中でそっと呟く。





───さよなら。






秋は不思議そうに俺を見上げたけど、タイミングよくその顔は遮られ、あっと言う間に引き裂かれた。

誰かが側で何かを言って、誰かが強く腕を掴む。
まるでドラマみたいに周りに人だかりが出来て、みんな自分を蔑んだ目で見ていた。

ただ一人を除いて


俺はそのただ一人に向かって吐き捨てた。





「バーカ。全部嘘に決まってんだろ。何、信じちゃってんの」





これで終われる─




秋はその場で立ち尽くしたまま、俺だけをじっと見つめ、泣きそうになるのをずっと堪えていた。



これでいい。

俺を憎めばいい。




これが秋に残したかったたった一つの事。




誰かが体を車に押し込み、誰かがバックミラー越しに鋭い視線を投げて車を走らせる。

その視線の背後には姿なんて見つからず、ただ真っ白な雪が降っていた。