「俺、シロ。あんた、名前なんて言ったっけ?」


「シ…ロ……」

元々無かった思考は更に放り出され、私はただその名前を繰り返す。
シロは一瞬目を丸くさせ、直ぐに笑みを作った。

まだ幼さの残る顔に整った目鼻立ち。
彼が《シロ》と名乗るのは、きっと髪の色から来てるのだろう。
金髪、と言うよりは、色が抜けすぎてクリーム色に近い。
例えるなら、白いカーテンが日差しで焼けたような、そんな感じの髪色だった。



「嘘吐かなくていいってば。言いたくないなら別にいいけどさ」

半ば諦めたように言葉を放り投げ、シロは遮光カーテンを思い切り開けた。
もう夕方も近いと言うのに、太陽は容赦なく私を照りつける。

シロは短く息をして、タバコを口にすると、そのまま物思いにふけるように窓の外を眺めた。
ふてくされているのか、または、これからの事を計画しているのか、どちらとも取れない顔つきだった。





「リリー」

どうして、その名前を口にしたのか分からない。
でも、何となく名乗らなきゃいけない気がした。

なのに、シロは「ふ~ん」と気のない返事をする。
そして、ようやくタバコに火をつけて煙を吐き出したかと思えば、大袈裟な欠伸をして、またあの笑みを作る。

良く笑う男だ。


この屈託のない笑みに、裏があるのだろうか?
僅かに取り戻した思考を使っても、答えは見つけられなかった。