「あと10分」
「え?」
「あと10分で消える」
彼の言葉に上を見上げる。
空には海のような深い紺色が敷き詰められ、その空を破ってしまうんじゃないか、と思うくらい鋭く赤い塔が真っ直ぐに立っている。
あのてっぺんに登れば、空や星や雲に手が届きそうな気がした。
「上って見たかったなぁ…」
思わず声に出して言った。
彼は携帯を見ながら、少し淋しそうに笑う。
「景色なんてホテルと変わんないよ…あと5分だ」
そう言いながら携帯を見つめ、カウントを始める。
私は黙って見上げ、彼のコートの袖をそっと摘むと彼は携帯を静かに閉じ、手を繋いで指を絡ませた。
こんな景色があるせいか、鼓動がやけに早くて、全身が心臓になったみたいで痛い…
思い付く限りの言葉を並べても、なぜかたったひとつしか取り出せない。
どうしよう
「もうすぐ消えるよ…10…9…8…」
声が掠れ、彼がそっと目を閉じると長い睫毛が白い肌に短い影を作る。
もうすぐ誰かが奪って行く。
その髪も、その白さも、その表情や姿も、確かにある温もりさえ全て浚ってしまう…
「5…4…3……」
彼が言い終わる前に明かりは消えた。
私は取り残されたみたいに、孤独な空を見上げて願った。
「え?」
「あと10分で消える」
彼の言葉に上を見上げる。
空には海のような深い紺色が敷き詰められ、その空を破ってしまうんじゃないか、と思うくらい鋭く赤い塔が真っ直ぐに立っている。
あのてっぺんに登れば、空や星や雲に手が届きそうな気がした。
「上って見たかったなぁ…」
思わず声に出して言った。
彼は携帯を見ながら、少し淋しそうに笑う。
「景色なんてホテルと変わんないよ…あと5分だ」
そう言いながら携帯を見つめ、カウントを始める。
私は黙って見上げ、彼のコートの袖をそっと摘むと彼は携帯を静かに閉じ、手を繋いで指を絡ませた。
こんな景色があるせいか、鼓動がやけに早くて、全身が心臓になったみたいで痛い…
思い付く限りの言葉を並べても、なぜかたったひとつしか取り出せない。
どうしよう
「もうすぐ消えるよ…10…9…8…」
声が掠れ、彼がそっと目を閉じると長い睫毛が白い肌に短い影を作る。
もうすぐ誰かが奪って行く。
その髪も、その白さも、その表情や姿も、確かにある温もりさえ全て浚ってしまう…
「5…4…3……」
彼が言い終わる前に明かりは消えた。
私は取り残されたみたいに、孤独な空を見上げて願った。

