「シロ?」

「んー?」



顔を覗き込むと明らかに目が据わってる。
視線は何を捉えてるのか分からない状態で、よく見れば左側の頬だけ妙に赤い。


「大丈夫?」


何があったかなんて訊くだけ野暮だと思い、取りあえずコップに水を注いで渡した。

だが、彼はそれを避けるようにして立ち上がり、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲み干す。
ほとんどの水が口の端から流れ落ち、服に染み込むのを気にも止めず、リビングへと足を運んで行く。

ベッドを背もたれに体を預け、タバコを口にしたあと、二、三度瞬きをして彼はゆっくりと目を閉じた。




「シロ…?」



確認するように近付くと、か細い息で胸を上下させ、うわごとのように何かを呟く。
それは本当に小さい声で、耳を近付けても何を言ってるのか聞き取れない程だった。

状況から予測すると、恐らく彼女の名前などを呼んでいるのだろう。


私は大してそれを気にも止めずに彼のコートを何とか脱がせ、シャツを取り替えようとするが、身体が思うように動かせず、どうする事も出来ずにそっと身体を戻した。



困ったな…

これじゃ、風邪をひくのは目に見えてる。



どうしようかと考えた末、ベッドの布団を彼に掛けた時。



「あき…」



不意に腕を掴まれ、名前を呼ばれた。
一瞬、耳を疑ったが、確かにそれは私の名前だった。