田村さんのお願いであってもいくらなんでもそれは無理だ。「やりなさい。高田。やりなさい」
「そんなの私ひとりだけでなんて無理ですよ!」
「あんただけが時間があるじゃない」
「そんな!私には就活がある!」
「全て面接までたどり着けないで落ちているんでしょ?しかももう諦めようとしてるじゃない」
「なぜそれを知っている。でも嫌なもんは嫌だ嫌だ!」
「だだこねていいの?あれ、ネットに公開するわよ?いいのかな?そしたらあんた、外に出歩けないんだよ」

説明がいるだろう。
田村さんは同じ四年生だが二浪してこの大学に入ったため年齢も二つ上のお姉様である。しかも名のある家のお嬢様らしいがしかし根性が良くない。
同じ映画研究会で彼女は部長である。
今やサークルに成り下がったが私が一年の時にはちゃんとした「部」だった。しかし、大学に対し何の益をもたらさず、反対の不利益となる自作映画の試写会によって「サークル」に成り下がったのである。その作品とは…私が主演の破廉恥極まりない内容のものだった。純真のフレッシュボーイな一年生だった私は、その映画の主演をやらされたのだ。事あるごとにそれを揺すりにかけるのだ。
今回は新一年生恒例の横浜小田原東海道歩行訓練の記録映画を撮れという事だ。大学に対し有益な映画を撮ることでまた「部」への昇格を目指す。だが真の目的は助成金である。「部」になると大学からの助成金が三倍、それ以上もらえる。田村さんの狙いはそれだ。その助成金で田村さんが計画している事がある。それが何であるか知っているのは私だけだ。