それだけでよかった


「あ」

「なに拗ねてんだよ」

もぐもぐ口を動かしながら冬樹は言った。

なんだか、泣きそうだった。

「ほかの子は?」

「女ばっかだからさ。居にくいんだよ、あそこ」

「なにそれ、質問の答えおかしいじゃん」

「てかさ」

笑おうとした私のおでこを冬樹がつつく。

「なんかあったの?クラス嫌?辛そうじゃん」

うれしいような、悲しいような甘酸っぱい優しさ。

「そんな時は、よっと」

ごろん、ぺたん。

「寝転んでみ?そんな季節じゃねぇけどさ、コンクリート冷たくて気持ちいいよ」

引っ張られた手は拒めない。
冬樹のとなりで見上げた空の色は、いつもと違った。

冬樹、すきだよ。