―――黄国。



再び、礼は黄国に滞在することとなった。



今回は“身体もあり”、二・三日で送られることになっている。



正直、母親を想って泣ける自分に、礼は驚いた。



武則天(ぶそくてん:土の君,黄国の長)の姿を見た時、母親と重なって、思いしれず涙を流したのだ。



母親と武則天の外見は、似ていない。



武則天の方が、年相応のつやっぽさがあって、よっぽど美しい。



“本当の私”は、母を思って泣きたかったのだと、礼は思った。



“本当の私”とは何なのだろ。



他者からみた私や、自分で考える私も、おそらく“本当の私”ではない。



心のもっと奥深くにある、という気もするが、あっさりと表面に出てくる嫌な自分が案外そうなのかもしれない。



考えても堂々巡りをするだけだ。



礼は考えるのを辞めた。



母親のために泣けたならそれでよかった。