「酌くらいなら。」



「ほう。」



方狼が口元を歪ませる。



ーやはり。



栄楽は確信した。



彼女は偽りの姫だ。



従者である彼こそが本物の主。



失踪は男を対象に捜し直さなければならない。



名は、いずれわかるだろう。



今は、この女を利用することだ。



だが、”あの男”が見誤るなど珍しい。



「よし、酒を持て。
従者は置いておくがよい。」



姫は素直に近づいた。



従者の指先が、微かに動く。



恐怖で声もでないか。



方狼は姫を横に座らせた。



「さあ、もっとこっちだ。」



方狼が姫の肩を抱き寄せる。



「栄楽、もう下がれ。」



栄楽は若干の不安を残すものの、出て行くしかなかった。



ーさて、王子様はどうなさるか?



去り際にちらりと従者を見た。



嫉妬と怒りが渦を巻き、表面は穏やかだが底は荒れ狂った海流のような顔をしている。



栄楽は、自分の推測に引っ掛かりを覚えた。



ー違う。
何かが違う。



違和感を感じながらも、栄楽はこの後のことを方狼に任せたのだった。