礼は、武則天から真実を聞かされていたので、朱雀の焦りが何となく伝わってきた。



だが礼もまた、朱雀に何と声をかけてよいのかわからなかった。



どれほど沈黙が流れただろう。



二人には永遠とすら思える時間だった。



「…たっ、ただいま」



やっとのことで、礼が口を開いた。



朱雀の肩が、ぴくりと揺れる。



どうでもよい言葉。



そんな言葉を朱雀は欲していない。



「あなたのせいじゃないわ。」



朱雀は目を見開いた。



それは、朱雀が求めていた言葉だった。



やっと言えた言葉に、礼自身も安心する。



王は丸ごと受け入れてくれたのだと、朱雀は思った。



“己の役目”を果たせず、王に残酷な役目をなすりつけた自分を。