今、自分達がこんなふうにしているのは、修二のその一言がきっかけだったのだ。
「あ、それ、覚えてたんだ」
修二が驚いた顔をするので、一歌の方は更に驚いた。
「忘れるわけ、ないじゃないですか」
唖然とした様子の一歌に、修二はまた笑い始めた。
あんな衝撃的なことを、忘れるはずがない。
修二は少ししてから笑いを止め、一歌の目を真っ直ぐに見た。
一瞬の沈黙が漂う。
「じゃあ、しようよ」
修二の奥二重の瞳が、一歌を捕えた。
それは、身動きが取れなくなる程の眼差しだ。
真剣な瞳に、一歌は一瞬にして吸い込まれそうになる。
「俺と、大恋愛しよう?」
あまりの甘い低音に、一歌はぞくりとし、自分が今、何を考えているかすら分からなくなった。
イエス、と述べようとしているのか、それとも今まで通り、ノー、と述べようとしているのか。
言葉が出てこないのとは違った。
完全に、思考回路が停止しているのだ。
どう答えたいのかが、全く分からない。
「どうするの?」
修二が含み笑いにも似た表情を浮かべて一歌に近付いてくるが、それでも答えが分からないでいた。
目の前で、やけに艶めいたこの人と恋愛がしたいのか、それとも変わらずに、お断りなのか。
一歌は動いているようで動いていない脳を、必死に掻き回したが、答えが分からない。
「……なんてね」
修二のその一言で、一歌の脳は正常を取り戻した。
「え……?」
一歌の口から、思わず間抜けな声が漏れた。
「どうせ、答えは変わらないんだろ?」
修二の言葉に、一歌の口は思わず開いた。

