修二と葉瑠が別れたのは信じられないのだ。
「元々さ、俺達、いつ終わってもおかしくなかったんだ」
修二の「俺達」という言葉に、一歌の胸は小さく痛んだ。
やはり、目の当たりにすると、嫌でも自分の気持ちに気付かされる。
「そうなんですか?」
「前から、葉瑠はずっと、歌うことに集中したい、て言ってたんだ。
でも俺が邪魔はしない、ていう約束で付き合ってた」
修二の話は、一歌には全く状況が見えなかった。
「葉瑠は葉瑠で、俺のことは好きだったんだけど、あいつは歌と恋愛を同時に出来る程器用じゃない」
確かに、歌姫葉瑠のイメージはそうだ。
何処までも歌に一途。
だから、あんなふうに歌えるのだ。
葉瑠の歌を聴いた人は誰でもそう思うだろう。
「前に、葉瑠が活動休止したの、覚えてる?」
修二の言葉に、一歌は頷いた。
大好きで憧れの葉瑠が活動休止すると聞いて、一歌はものすごい衝撃を受けたのだ。
「あいつ、勝手に海外に行ったんだよ。
歌と俺、どっちのが大切か考えたいって。
その時、終わりかな、て思ったけど」
修二は先程からずっと苦笑いをしている。
彼のこんな表情が見たくて訊いたわけではないが、一歌は止めることが出来なかった。
修二は全てを吐き出してしまいたいように見えるからだ。
「で、突然帰ってきて、やっぱり選べない、て。
ほっとしたんだか、残念なんだか分かんなかったけど、まだ好きだから付き合い続けた。
でも、葉瑠は結局歌を選んだ。
まあ、俺の方も徐々に冷めてきてたから、自然消滅に近いけど」
修二は最後に普通に笑った。
それは、吹っ切れたような笑顔だ。
「あの、一つ言わせてもらってもいいですか?」
一歌は息を吸ってから、大きな声を出した。
それに、修二は驚いた表情をする。

