映画の上映が始まり、一歌はスタイリストに用意されたドレスに身を包み、メイクアップをしてもらった。
素顔の一歌とは変わり、見る者に華やかな印象を与える姿へと変貌を遂げた。
だが、二年前の自分が同じことをしても、そんなふうにならなかとた、といても鏡を見る度に思っている。
気持ちと姿勢。
それだけで、全てが違うのだ。
一歌はそこまで考えると、ふいに笑いが込み上げてきた。
十分引きずっている、と自覚する。
この仕事を依頼されてからの数ヵ月、一歌は幾度となく、以前の自分と、今の自分を較べていた。
歌声、歌に対する姿勢、歌う意味、見た目。
何もかも、全てだ。
それまでは、ただがむしゃらに前を向いて、高みを目指し、歌っていただけだった。
でも、今は違う。
一歌はことある毎に、二年前の、修二に出会ったばかりの頃の自分を引きずり出していた。
まるで、あの頃を懐かしむように。
一歌は今もまだ、修二のことが好きなのだ。
ふいに、歌が口をついて出た。
貴方が信じてくれた道
私自身であること
夢を抱え 俯いた日々
立ち止まることさえ知らずに
今の一歌になるきっかけを与えてくれた歌。
「私、その曲から一歌さんのファンになったんですよ」
メイクのアシスタントの若い女の子が甲高い声を上げた。
「生で聴けるなんて、最高です。さすが、綺麗な歌声ですね」
一歌はその子に向かって、にっこりと微笑んだ。

