あ、名前じゃないのか…。

たったそれだけのことなのに、心が少ししぼんだ。

あの出来事はウソだったのかと思ったけど、それがフツーだったなと同時に思う。

他のホストやボーイ仲間は僕のことを“雫ちゃん”なんて呼ぶけど、真鶴さんは名字で呼んでいた。

「残念ながら、僕には」

首を横に振って答えた後、
「真鶴さんは?

真鶴さん、すごくモテますから」

「真鶴さん、ご指名です」

他のボーイが控え室に顔を出した。

「ああ、今行く」

吸っていたタバコを灰皿に押しつけると、腰をあげる。

僕の横を通る時、
「今日はお前が当番だったよな?

話があるから残れ」

誰にも聞こえないくらいの小さな声で、彼はささやいたのだった。