恋心


去年の夏休み
補習を受けに学校へ行って
校庭の横を通り過ぎた

野球部が熱心に練習を行っている

「こんな暑い日に部活出るなんてどうかしてるな」

軽い独り言を呟く
中学生になって
癖になってしまった独り言

友達も少ないし
勉強できないし
彼女できないし

いまいちパッとしない中学校生活

暗い気持ちになりながら
校庭を横切る

フェンス越しに居たのは
クラスのアイドル町岡美波
…気になる人

友人と一緒にサイダーを片手に
野球部を見物している

「野球してる人って爽やかでいいよね」


その時俺に欠けていたもの

やる気
勇気
爽やかさ


俺が野球部に入った理由
元太には言ってないけど
…言えないけど

町岡のせい


2学期からすぐに野球部に所属した
先生には2年生になってから、
と勧められたけど
その間に町岡に彼氏ができたらおしまいなので。


野球部は思ったより過酷だった

でも練習した分
ちょっと自分に自信が持てた

町岡に挨拶したり
話しかけたりするのには時間が掛かるけど

少しずつ距離が縮まってる気がする

俺は告白することにした

今の俺ならいける
ルックスはいい方だし
野球して爽やかだし


「1年の頃から好きでした!」

町岡は驚いた顔をした

「町岡が好きだから野球始めて、頑張って爽やかになったん」

「ごめん」


…あー


「野球してる人が好きなんじゃなくて…何かに熱心に取り組む人が好きなの。今の話聞いてるだけだと野田君は無理して野球してるみたい」

…町岡の言ってる事は正しい

俺、町岡に好かれる為だけに野球してた

野球が楽しいなんて思ったことなかった

「だよな、ごめん」



2日後
顧問に退部届を提出した


「どうしていきなり…」

「自分を見つめ直すためです」



校庭からバッティングの音が聞こえる

昨日より夕陽が鮮やかだ

「―よし」


癖になった独り言も
これでおしまい

明日の自分に向かって
俺は走り出した