「と見せかけて、隙あり」


「うわっ!」






顔に陰がかかって、蓮の唇が近付いてくるのがすぐ分かった。

や、やばっ!








チュ




「ぅぇっ?」





柔らかな感触は、唇ではなく額に下りてきた。

目の前にあるのは蓮の瞳ではなく、顎と喉仏。


なんで………って別に期待してたわけじゃないけどね!び、びっくりしただけだからね!



「そんな寂しそうな顔しないでください」


「してなっ………え、してる!?」


「寂しくてたまらない顔してます」


「え!;」


「嘘です」


「え………」



くっそ~。いじられた。
悔しくて、蓮を睨む。


「残念ながら、時間切れのようですので」


時間切れ?



そのとき、玄関の扉が開く音と、ママの声が聞こえてきた。


ピンチ2回目。いや3回目?
4回目かも?まあいいや。


蓮がスッと離れ、私の手を取り起き上がらせる。

こういうのは紳士的なんだけどな。



「何ホッとしてるんですか」


「し、してないよ!」



見抜かれた!


「真央さんまさか、これで終わりだと思ってるんですか」


「え?終わりじゃないの?」


「罰ゲームは実行しましょうね」


「えぇ!?無理無理!!」




もういいでしょ!?


そんな意を込めて睨めば、蓮はニッコリ笑う。


「僕があれで満足すると思いますか?」


「………満足してください」


「無茶言わないでくださいよ」

「こっちのセリフだよ!」



言い合いをしているうちに、リビングにママと昌彦さんが入ってきた。


「「お帰り(なさい)」」


「「ただいま」」





いつものように出迎えて、たわいのない会話をする。


だけどいつもと違うのは、私の頭が蓮でいっぱいだということ。




ママと昌彦さんが目をそらした隙に、蓮は私の右手を優しく握り、






「後で僕の部屋に来てくださいね」




耳たぶを甘噛みして、そう囁いた。







●賭けをしましょう●



(何かが始まる予感がする)
(もう始まってますよ)