伝わらないのは、ひどくもどかしい。
 
思いっきり息を吸う。
 
ライブの最高潮で出すくらい、大きく叫ぶ。
 
俺の声が彼女に届かないなんて、そんなのは嫌だから。
 
若干掠れたけど、俺の渾身の一声。
 
ピタッと、歌が止む。
 
勢いよく振り向いた彼女は、今まで見たことないくらい大きく目を開いていた。
 
「お前、どんだけ大音量で音楽聞いてんだよ。」
 
やっと彼女が振り向いた達成感と、少しの疲労感が伴って

微妙な顔になりながらも、用意していた疑問を投げかける。

未だに状況の掴めてなさそうな彼女は、ゆっくりとイヤホンを外した。
 
片方だけ。
 
返事は、ない。
 
「モリノ、めっちゃ歌上手いのな。初めて知った。」
 
そこらへんの歌手よりも上手くて、なにより綺麗だったから
 
少しテンションの上がった声になる。
 
彼女は、さっきの驚いた表情をすでに引っ込めてて
 
いつもの仏頂面に戻っていた。
 
「それ、いい曲だよな。モリノ、シャウト好きなの?意外だな。」
 
おとなしめな風体の彼女が、シャウト。
 
でも、どこかしっくりくるのが不思議だ。
 
「やっぱり、モリノ、地元一緒だったんだな。この近く?俺、ちょっと下ったとこの住宅街なんだけど。」
 
話すチャンスを逃すまいと話しかけるけど
 
彼女は全く口を開かない。
 
会話の基本は質疑応答だろうと思って、ちゃんと疑問文で終わらせてるつもりなんだけど。
 
応答、なし。
 
彼女の顔をうかがうと、いつもよりも鋭い視線。
 
思わず、唾を飲みこむ。
 
今はこの前の教室みたいに騒がしくないから、片耳はずれたイヤホンから音が漏れてる。
 
閑静な公園で、音は彼女のイヤホンから漏れる音楽くらいだから

俺の唾を飲みこむ音は恥ずかしいくらい響いてしまった。