当日、俺は地区役員の人に言われた通り、控室に、出演者が全員いるかどうか確認しに入った。

中には、燕尾服やドレスに身を包み、緊張した面持ちの子供たちがいた。

俺と同じくらいか、俺より小さい、子供たち。

これだから、こんなところに来るのは嫌だったんだ。

自分にない才能と境遇を持ち合わせた人達。

同じ空間に入ってしまうと、自分の平凡さが浮き彫りになる。

場の空気にそぐわない俺は、存在を否定されたような気がした。

いや、否定というよりは、誰も俺の存在に気付いていないって感覚。

自分を表現する手段を持ち合わせていない俺は、あまりに薄っぺらい存在だった。

息が詰まりそうなのを堪えて、出欠確認のために周りを見渡す。

人数が合わない。

ひとり、この場にいないようだ。

トイレにでも行ってるのかと思って、部屋の隅で待つことにした。

部屋の隅っこで、早く来いと念じる。

周りの子供たちが楽譜を鍵盤に見立てて叩いている音だけが部屋に響いていた。

早くこの場から抜け出さないと、ノイローゼになってしまいそうだ。

気を紛らわそうと、今月発売のゲームを思い浮かべる。

このシリーズは攻略本が必要だな、とか金額を見立てる。

合計金額が一万を超え、なにか諦めなきゃいけないなぁ、とか思っている頃。

静かにドアの開く音がした。

燕尾服に蝶ネクタイを着こなした少年が部屋に入ってくる。

見たことのある顔だった。

でも、どこで見たかは思い出せない。

首を捻っていると、その少年と目があった。

あ、って顔してる。

向こうは、こちらのことを覚えているようだ。

しかし、すぐに澄ました顔になると、自席へ戻っていった。

視線が逸れた瞬間、なんだか見下されたような気がした。

Tシャツにジーパンの俺は、どうせ場違いな人間さ。

最後の一人を見届けて、出席確認が終わったので、足早に部屋を出る。