お坊ちゃんなよっさんは、昔、ピアノを習ってた。

親に無理やり習わされてやっていたが、それなりに楽しかったと言っていた。

止めたのは、どうしてだったっけ。

そうだ、俺がバンドをやらないかって誘ったからだ。

俺が誘ったから、それを口実に中学の始めにピアノを止めてギターを手に取った。

俺がベースやりたいから、よっさんがギター。

今思うと、非常に自分勝手なことだと思う。

利己的な俺に、よっさんは文句を言いながらも、ずっと一緒にやってきてくれた。

今になって客観的に考えると、周りの言っていることがよく分かる。

なぜこうも正反対な俺とよっさんが、ずっとつるんでいるのか、疑問だ。

一人の世界に入ってしまったよっさんは険しい表情のままで。

たまに右端の鍵盤を叩いては、トコン、と虚しい音を響かせた。

なんとなくいたたまれなくなったから、ベースカバーからベースを取り出してセッティングをする。

弾いていた曲が終わったのか、次の曲に移る。

高音の、澄んだ音から始まる、綺麗で、繊細な、でも力強い曲。

俺は、この曲を知っている。

「ねぇ、なんでクラシック?」

「たまには違う雰囲気の曲も弾きたくなるだろ。」

目を鍵盤に落としたまま、答えてくれる。

思い出した。

俺がバンドをやろうと思った理由。

よっさんを誘った理由。

きっかけはこの曲だ。

懐かしいこの曲だ。

今となっては、とても恥ずかしい理由。

さっき思い出してたとしても、とてもじゃないけど、よっさんになんか伝えられない。

俺は一人、過去の自分に恥ずかしくなって、ベースに顔をうずめた。