「いや、そんなコト言われても、歌詞なんてパッとなんて浮かばないし。」

「歌詞うんぬんじゃなくてさ。お前は、曲が作りたいから歌詞書いてるわけ?伝えたいコトがあるから、歌詞書いてんじゃないの?」

「どしたの、よっさん。クサイよ?」

言うと、更によっさんの表情が険しくなる。

いやいやいや、そんな歯の浮くような台詞言われても。

青春ごっこじゃないっつーか。

「この4年間はなんだったんだろうな。」

「ホント、急にどうしたの。今日おかしいよ。」

「お前さ、今までも適当に歌詞書いてたわけ?」

そうじゃない。

そんなわけない。

歌詞作りに、手を抜いたことなんて一度もないし、上っ面だけの歌詞を書いてたつもりもない。

そんなことは一番近く近くにいたよっさんが、一番分かってるはずだ。

分かってくれているはずだ。

「ね、マジ落ち着こう。俺、なんかよっさんの気に障るようなこと言った?」

よっさんは意味なく怒る人じゃないから、何か原因があるはずだ。

「別に、俺は落ち着いてる。」

「嘘つくなよ。今、怒ってたじゃん。何、俺が歌詞書けないのが、そんなに悪いわけ?」

「そんなこと言ってないだろ。ただ、お前があまりにもふざけてるから。」

「そんなん、いつもじゃん。」

会話が途切れる。

よっさんは、険しい表情のまま、キーボードを奏で始めた。

いつものじゃんじゃんと叩きまくるようなやつじゃなくて、優しい優しい、クラシックのような音色。

右端の鍵盤が鳴らない上に、安物だから強弱もつけられないキーボード。

けれど、流れ出る音は、すんなりと俺の体に滲みこんだ。

懐かしい感覚。

最近はめっきり弾かなくなってしまったという、クラシック曲。