よっさんが、キーボードを鳴らす。

これは、始めるぞって合図。

「なぁ、今回の曲、コンセプトも決まってないわけ?」

「あぁ、さっぱり。」

「マジかよ。何、スランプ?」

スランプとは、違う気がする。

なんだろ。

なんか、パッとしないんだよな。

「いやぁ、俺って何を伝えたいんだろね。って感じ。」

「じゃぁ、何で誠也は俺にバンドやろうって、誘ったわけ。」

何で。

何でって。

何でだろう。

「そういや、何でだったっけな。」

「俺は、そんなんに付き合ってたのか。」

「いや、確か理由はあったよ。」

「流行か。モテたいからか。」

「それは否定できん。」

「俺の4年間を返せ。」

「ごめん、俺神じゃないから無理。」

「神がなんでも出来るってのは、偏見だぞ。」

「マジでか。だって、全知全能の神とか言うじゃん。」

「漫画の見すぎだ。ってか、神は宗教が絡んでくる問題だから、どうこう言えるもんじゃねぇ。」

「神っても、沢山あるもんね。新世界の神とか。」

「どこの夜神月だよ。ってか、話逸れてるっつの。歌詞の題材決まんないなら、曲の雰囲気だけでも、考えようぜ。」

「歌詞決まってないのに、曲の雰囲気決めるの?」

「そっから、なにかインスパイアされるかもしんないだろ。」

「いんすぱいあ。」

「なんだよ。」

「いや、なんかカッコイイ言葉だなと。流石よっさん。」

日常会話でいんすぱいあとか聞いたことないよ。

そんな言葉がサラッと出てきて、しかもなんの違和感もないとか。

これが俺とよっさんの差なのか。

へこむ俺を尻目に、意味わかんね、とか言いながら、よっさんは曲用のメモノートを取り出す。

俺にも見せてくれない、謎に包まれた、青色のメモ帳。