その時は“へぇ・・・”としか思わなかったけど、部活で居残り練習をした日、あたしはそいつを見た。



夏だからまだ明るかったものの、1人で黙々と練習をしていた。



そこから目が離せずにいると、気付けば辺りは暗くなっていた。



ヤバイ・・・お母さんに連絡してなかった!



急いで電話をかけようとしたが、怒られそうなのでメールを送った。




そして、辺りのボールを拾って片付けをしている彼のもとへ行った。




「はい」


「あ、ありがとうございます。・・・あれ、君って確か同じクラスの大原真心さんだよね?」


「そうだけど、よく名前知ってたね」


「真心って書いてマコって読むでしょ?それがすごく印象に残ってたし、1年も一緒のクラスにいれば覚えるしょ?」


「ごめん、あたし上の名前すら覚えてない。どうも昔から名前を覚えるのが苦手で・・・」


「いや・・・僕も影薄いからね。この機会に覚えてくれると嬉しいな。僕の名前は林一飛(イチト)。よろしくね・・・えと、なんて呼べばいいかな?」


「普通に真心でいいよ」


「じゃぁ真心。よろしく」



“こちらこそ”と握手した手は、大きくて土で汚れた真っ黒な手だった。



一飛はすぐに離して“ごめん!”と言ってきたけど、あたしは何にも気にしなかった。