「先生、これから帰るの?」

「おー、帰って寝る。そんで5時起きで仕事」

「仕事大好きなんだね」

「…好きじゃねーし…」

キライでもないけど。

というのは、心の中でつけ足した。

我ながら素直じゃねーな。

「じゃあな、勉強はほどほどにして早く寝ろよ」

彼女に背を向けて歩き出した。

すると、


「…また会いたい」


思わず立ち止まる。

「先生の患者さんじゃなくなっちゃったけど、会いたいんだもん…だから」

「あのさ」

何か言いかけた彼女の言葉をさえぎった。

もう、押さえられなかった。

この気持ちは、止められないんだ。

振り返り、彼女の目を見て言う。

「オレ、お前のこと患者とは思ってないから」

「…え?」

「一人の女として見てた。サイテーな医者だろ?」

自嘲気味に笑った。

なに告ってんだろ、オレ。

ほぼ10歳も年が離れてる女に。

「…好きだ。付き合ってほしい」

時が止まったかのように動かない彼女。

……。

沈黙…。

そして、

静かにうなずいた。

しっかりと。

この瞬間、オレとタコ女は医者と患者じゃなくなったんだ。