二人は、深いカーペットを敷き詰めたホテルのロビーに入る。
バーラウンジは、ホテルの最上階にある。
二人は、エレベーターのある方に向かった。

「ここのバァテンダーが作るカクテルは、なかなかのものだよ。何か希望の飲み物はあるかい?」
正和が自慢するように言う。

「じゃ・・・・・・私はノンアルコールね 」
「えっ! 飲まないの?」
正和が意外そうな顔をする。

「今、ちょっとお酒を止めているの・・・・・・ほら、東京で一緒に飲んだ時、正和にも迷惑かけたでしょう・・・・・・」
敦子が照れ笑いをする。

「あの時のこと気にしているのか?」
正和は、敦子が冗談で言っているようで半信半疑だった。


エレベーター前に来た。

「自分のことだったら、気にしないでくれ。あの夜のことがあったから、自分は、もう一度バンドをやる気持ちになったんだ」
正和が、敦子を気遣った。

「そう・・・・・・」
敦子が何気なく答えた時、横で人の気配を感じた。

敦子が横に目をやると、一瞬にして硬い表情に変わった。

「どうしたんだ? 」
正和が、敦子の変化に気付いた。

目の前には、クリームイエローのサマースーツを着た背の高い男が立つていた。