敦子は、父親に将来は音楽の仕事をしたいことを告げたことがある。まだ中学生だった。その時、厳格な父親は厳しい表情で、音楽を職業にすることを反対された。当時の敦子は、漠然とした思いでしか音楽を職業として考えていなかった。そのため、父親には何ひとつ反論できなかった。

栞が、真紀子に向かってダンスをやりたいことを告げている姿に、敦子は心の中で声援していた。

彼女は、このままダンスをあきらめてしまうのだろうか。敦子は、栞のことが自分のことのように気になった。

タクシーが信号待ちになる。
「あっ! 」 
敦子が思わす声を出した。

敦子の目の前に栞が歩いていた。
信号が青になって、タクシーが動き出した。