夕暮れ時。
正和と栞は、薬院にある『津波』という店に出向いた。

店は、真紀子の母親の静香が営む小料理屋だった。

カウンター席しかない小さな店だったが、手頃な飲食の値段と、気さくな静香の人柄を気にいった客がいて、結構店は繁盛している。

開店後、静香がカウンターの中で、突出しの料理を用意していると、店の扉が開いて、正和が入って来た。

「あら! いらっしゃい。今日は早いのね」
静香が、正和の顔を見るなり意外そうに言う。いつもなら、正和が開店後すぐに店に来ることはないからだ。

「中田と待ち合わせなんだ」と、正和が答えると、栞が店の中に入って来る。