「冗談じゃないよ! 本当に一緒に踊っただけだよ。それ以外何もないよ」
竹中は真顔で否定する。

「今朝なんか、嫁にあれこれ詮索されて問い詰められて、大変だったんだ・・・・・・」
竹中が、ため息まじりに言う。

「バカね」
小田が呆れ顔をした。

小田は竹中の言うとおり、店の彼女とは何もないと思った。
しかし、口紅は女の痕跡である。それを残して家に帰ってきたことに、妻の美和には、夫の竹中が、許せなかったのではないか。
小田は、なんとなく美和の気持ちがわかる気がした。


竹中が、敦子と二人きりになるのを拒む理由がわかった。
要するに美和に気をつかっている。それは、竹中自身が警戒している。
これ以上、女性のことで美和に変な誤解を招きたくないためだった。

「なあ、お前の家に行こう」
突然、竹中が思いついたように言い出した。