「斉藤です」
と、敦子が頭を下げる。

「竹中です」
慌てた様子で挨拶する。

「なんか懐かしい気がする」
敦子が、周りを見渡しながら思ったままを口にした。
コンクリートの壁に薄暗い空間は、敦子が、アマチャ時代に演奏の練習をしていた場所とよく似ていた。どこか昔を思い出す匂いがする。

「敦子さん」
小田が、電子ピアノの前に立つて呼んだ。

「これが私の楽器よ」
小田は、ローランドの電子ピアノを使用している。

「なかなかのものじゃない」
敦子が見た瞬間、電子ピアノは値段が張るいいものだとわかった。

「演奏の腕前はまだまだなんだけど、せめて楽器に似合うような演奏ができるようにと思って、思い切って購入したの」
小田が照れるように説明した。