のに。



「郁…。」



いきなり耳元で美鶴が囁く声がした。



びくりと肩が竦み、足が止まった隙にがっちりと抱きとめられる。



自分の腰に回っている手が、肩に置かれている美鶴の頭が、信じられなかった。



「待ってよ…。」



掠れた声で、美鶴は囁いた。



「俺、郁に嫌われたの?」



なんでそんなこと訊くの。



「もう、顔も見たくない?」



あたしの脳は嵐を起こしていて、マトモに答えられなかった。



なのに、美鶴の声は今もはっきりと覚えている。



「郁…。」



ぎゅっと、背中にくっつく美鶴。



あたしは棒立ちしたままだった。



しばらくしてから、美鶴はゆっくりとあたしを放した。



そして正面に回り込み、あたしとしっかり目を合わせる。



「嫌い…。」


「…ホント?」


「うん。
…でも、好きのがおっきい。」



そう言うと、すごく傷ついた顔をした美鶴がほっと息をはいた。