「野上……」


原口係長に視線を移した途端に、涙がポロポロと零れ落ちた。


もう、何もわからなかった。


原口係長が何か言っていたけど、あたしの耳には届かなくて。


やがて、タクシーは夜の街を走り出した。


誰も言葉を発することもなく、あたしは震える自分の指先をギュッと握りしめていた。