孝太が山本さんの腰に腕を回して、支えるように階段を上がっていく。


あたしはその様子をゆっくりと通りすぎるタクシーの中から黙って見ていた。


目の前の光景が信じられなかった。何かの間違いであって欲しい。


そう想っても、あたしの視線の先には寄り添っている二人の姿が、はっきりと確認できる。


あたし達が乗っていたタクシーは、指示通り少し先で音もなく止まると、ハザードランプを点滅させた。


階段を上りきった二人は、当然の事のように孝太の部屋に姿を消すと、あたしには聞こえる筈もない、ドアが閉まる音が聞こえたような気がした。