そして、台所の引き戸を開けた。


「海斗を失いたくなかったら、離れたらいかん」


台所の引き戸がスーと移動する。


腰を曲げて、おばあが入って行く。


「おまえらは、離れたらだめさー」


スー……トン。


引き戸が閉まって、おばあの姿はなくなった。


あたしは年期のある木の引き戸を見つめた。


―いずれ知る日が来るさ―


おばあの言った事は、嘘だとは思えなかった。


きっと、予言でも何でもないけれど、嘘だとは思えなかった。


「おばあ!」


引き戸の向こうに聞こえるように、大きな声で言った。


この島へ来てまだ一週間だけど。


まだ、あたしはこの島のことを何も分からないけど。


でも、あたしを救ってくれたのは、確かにあの綺麗な瞳をした、海斗という男の子だった。


「また、遊びに来てもいい?」


返事はない。


でも、想像がつく。


きっと、おばあは台所で食器を洗いながらフンと鼻を鳴らしているに違いない。


無愛想に、ふてぶてしく。


「また来るからね!」


全然、全く可愛くないおばあだけど。


また、おばあに会いたいと思っているあたしがいた。


「来るからね!」


一方的にそう決めて、あたしはおばあの家を出た。


すっかり暗闇になったのに、白い道が近所をぼんやり明るく照らしていた。


月明かりが、ハイビスカスの花びらに反射して、細かく輝く。


「へんな島」