バレンタインデーは、悠真の日と言っても過言ではなかった。


「どうだね! これが与那星のマツジュンの実力やんど!」


両手にぶら下げた紙袋からあふれんばかりのチョコレート。


「すごいじゃん、悠真。全部もらったの?」


「やっさー。これがわんの実力さ」


「だーれがマツジュンか。バカかぁ悠真。分かってんの?」


ふん、と鼻で笑い飛ばした里菜の次の一言に、


「来月やホワイトデーだば。ちゃんと全員にお返ししよーさいよ」


「はっさぁ……それがあったかぁーっ……」


と頭を抱えた悠真。


学校の近くの公園の寒緋桜がもうすぐ満開を迎えようとしていた、きれいな青空の日だった。


チョコレートを食べすぎた悠真が鼻血を出した。


3月。


悠真がついに与那星のマツジュンを卒業した。


「どうしたの! 悠真! ええっ、何で?」


「何があったんか、悠真! これや大変さ! 沖縄に雪が降るかもしれねーらん!」


あたしも里菜も驚愕だった。


「何ねー。そんなに驚くことかね。大げささぁ」


突然、悠真が髪の毛を黒く染めて登校して来た。


「はっはっはー。ますます知的なイキガになったやさ。わんやマツジュン卒業したんだしさ」


「へ?」


「はぁ?」


「はっはっはっはーさ。チュー(今日)からわんやショウくんになったのさ。どうだね、どうだね、惚れたかね。いや、参ったさぁー」


「……どうってあびられても(言われても)。ねぇ……陽妃ぃ」


「う……うん。てか、全然、似てないしね……」


「ばっ! バカかぁ! 今朝、トミおばあに言われちゃんだしさ! ショウくんかと思ったさーって」


「「……」」


「あがぁぁぁぁー!」


満開だった寒緋桜が散り、今度はテッポウユリという純白の花が咲いた、うららかな日。


海斗と葵ちゃんが揃って那覇のA高に合格した。