「調子がいいんやっさーから。呆れてものが言えねーらん」


フウン、と疲れ切った顔で里菜が椅子にどっかりと座った。


あたしと早穂は目を合わせて同時に吹き出した。


笑いごとじゃねーらん、と眉毛をハの字にして、里菜は机に頬杖をつく。


「もったいねーらんよね」


悠真が飛び出して行った入り口を見てそう言ったのは早穂だった。


「背や高いしさ、明るいしさ、かっこいいしさ。でーじ(すごく)モテるのにねぇ」


確かに。


早穂の言う通りだ。


「ね。ほんとに」


うんうん、と相槌を打つあたしに「やっぱり陽妃も思うかね」と早穂が顔を近づけてくる。


もう一度相槌を返すと、早穂がこそこそと小声になった。


「じゅんにモテるんさ、悠真くん。狙っちょる子やでーじでーじおるよ」


ほら、あの子、と早穂があたし越しにコソコソと向こうを指さす。


「え? 誰?」


「今年の春にさ、悠真くんに告白して振られちょるんだしよ。やてぃん、まだ諦めてねーらんらしいんやさ」


こっそり振り向いた先に居たのは、廊下側の席で難しそうな本を読んでいる宮里芹菜(みやさと せりな)さんだった。


まだ数回しか話したことはないけれど、さばさばしていて、人懐こい笑顔が印象に残っている。


「えっ。うそ。あの宮里さんが?」


と、なぜかあたしまで早穂に顔を近づけて小声になってしまったのにはちょっとした理由がある。


「やさ、やさ」


こく、こく、と早穂が頷く。


宮里さんは昨年の文化祭で1年生ながらミスを取ったという、この学校のマドンナ的存在なのだ。


大粒のどんぐり眼に、つけまつ毛じゃないかと勘違いしそうなくらいに長い長いまつ毛。


真っ黒な髪の毛は胸下まで長くて、艶々でサラサラで。


華奢で折れてしまいそうな細身のスタイル。


スポーツ万能で、それでいて、成績は常に学年トップ、らしい。


「芹菜ちゃんが振られた時は、学年中が騒然となったやしがね」


無理もないと思う。


学校一の美女と謳われるくらいの彼女が振られたというのだから。